本文は インセプションデッキ Advent Calendar 2019 の21日目の記事です。
インセプションデッキ Advent Calendar 2019 – Adventar
アジャイル開発のプラクティスの1つである「インセプションデッキ」をテーマにしたAdvent Calendarです。 「インセプションデッキ」はいろんな現場で使われていますが、実際にどう使われているのかの情報が意外と出回っていません。教科書のままやるにはちょっとあれなインセプションデッキをどうやって活用しているのかぜひお互いに共有して、知見を集められるといいなーと思って立てました。 …
はじめに
みなさんこんにちは、稲野です。私はアジャイルコーチをやっている仕事柄、しばしばインセプションデッキ作成のお手伝いをする機会があります。なのでこのアドベントカレンダーでは今までやってきた中でよくやるパターンとか作る時のポイントあたりを抽出、整理すれば書けるかなと思っていました。ただちょっと時間の余裕が欲しかったので12月の早い日ではなく21日目にエントリーしたのですが、それが仇となろうとは想定していませんでした。というのもこの日に至るまでの間に自分が書こうと思ってたことがどんどん先人達によって書かれてしまったんです…
「じゃあどうすっかなぁ」と考えてみたものの途方に暮れるだけだったのでもう開き直るしかありません。というわけで直近お手伝いしたインセプションデッキの実例をいくつかとり上げ、その際に何かポイントみたいなのを拾えたらそれを伝えるスタイルでお届けすることにしましたのでよろしくお願いします。(そっ閉じするなら今のうちです)
ちなみに公開できない箇所はモザイクにしているのでご了承ください。
よくつくるデッキの構成
まず、インセプションデッキを作るタイミングはチーム立ち上げ時が定番ですが、実際はそれだけには限りません。既に走ってるチームが一旦立ち止まり「俺たち迷走してないよね?」と確認すべくやることもよくあります。とはいえいずれにせよ一部の質問は今更だったり、或いは時間の都合などで10の質問全てをつくることは稀です。経験上、以下の5つをつくることが多かったように思います。
- 我々はなぜここにいるのか
- エレベーターピッチをつくる
- 「ご近所さん」を探せ
- 夜も眠れなくなるような問題は何だろう
- 何を諦めるのかをはっきりさせる
というわけでつくる頻度の高かったこれらの中からいくつか見てみましょう。
実際つくったものたち
我々はなぜここにいるのか
この時はまずは参加者は各自ふせんに書き、それをホワイトボードに貼り共有しながら最終的に一文にまとめてもらいました。POがなかなか熱いモチベーターだったので結構大きく夢を語り、みんなそれに引っ張られる感がありましたがビジョンを示すという意味ではまぁ良かったんじゃないかと。このPOはこれに限らず常にビジネスの状況や自身が描くビジョンや思いを熱く語り続けていたのでチームは良くモチベートされていました。(熱が冷めない余りについ稼働が高くなってしまった時期があったという副作用もありましたが…)ここでのポイントは「ここでは大いに夢を語れ」かなぁ
この時はみんなワイワイしながら進め、最終的に3つの文章を作っていました。ちなみに一番上の文が最も重要だと合意したものです。ふせんには単語レベルを書き、あとはそれらを組み換えながら文章をつくるという自由度の高い面白いつくり方が特徴です。その故かいろんな意見を取り入れながらあれこれ軌道修正・方向転換しつつもだんだんとまとめていくという、先程の熱いPOがいるチームとは対象的な流れだったのが印象的でした。
エレベーターピッチ
これはエレベータピッチのテンプレを虫食い状態にしてホワイトボードに書き出し、それを埋めてもらう流れでつくってもらいました。各欄の左に貼ってあるものが最終的に採用された言葉、右に寄せられているのがボツになったものです。ただ各欄で最適だと思える言葉を選ぶまではスムーズに進むものの、最後にピッチ全体で通すとぎこちなさや流れに違和感あるよね、と気づき見直しが必要でした。なのでポイントとしては虫食いテンプレは便利で早いけど最後に全体のバランスを見て整えようということになりそうです。
これも虫食いテンプレを埋める流れでつくった例です。黄色のふせんがテンプレになります。線を引いた左側にあるふせんはボツになった言葉たちです。基本的には先ほどのピッチと似ていますが、このチームはあれこれ試行錯誤した末に「しっくりこないから」とテンプレの最後を崩しました。これはテンプレという型に沿って作ることが目的ではなく、出資者のハートを掴むようなピッチを作りプロダクトの本質を表現することが本来の目的なので全然問題ありません。思いかけず守破離の破を見せつけられた気がしてます。
「ご近所さん」を探せ
これはステークホルダがとても多いチームがつくったものです。中心部の青枠はスクラムチームとそのプロダクトというかプロジェクトに関するチームや組織になります。なのでこの中だけでも既に「ご近所さん」を表せているのですが、実際のところその外側にPOの意思決定に影響を及ぼす関係者がたくさんいるということなので、それを表したらこうなったという例です。青枠からの距離が影響力の度合いを、また関係者の並びが関係者同士の関係や距離感も表しています。ちなみにこれをつくるまで実態を知らなかったDevチームは「うわー…」という反応をしてたなぁ。
夜も眠れなくなるような問題は何だろう
これは参加者が思うがままに考えられる将来の不安やリスクを書き出し、共有しながら整理してつくってもらいました。特徴は、実際に起こった時の影響度の大小とその要因がチームの内側なのか外側なのかという4象限でマッピングしている点です。そしてその上で、あらかじめ自分たちで対策を考えておけそうなものを赤丸でマークしています。勿論考えすぎてもムダにしかなりませんが、いざ発現してアタフタするよりも転ばぬ先の杖を用意しておけるのならその方が安心ですし、”持続可能なチーム”の一助になるはずかと思います。
何を諦めるのかをはっきりさせる
やれば必ずモメる、というかモメなかったらむしろ健全な議論ができてなくてヤバいんじゃないかと言われる(?)トレードオフスライダーです。この時もスライダーであるふせんが右に左にいったりきたりと、しっかりモメていた覚えがあります。私もその時のスライダーを見ながら具体的な例にして「こういうことを意味しますが合ってますかね?いざとなったら本当にこのとおりに行動できますか?」と繰り返し問いかけていました。
これは関係者が多く、更にリリース日が固定というプロダクトのチームがつくったものです。なので時間(納期)が必然的に優先度最高、次いで品質はいわずもがな、以降はスコープ、予算と順当な並び順に落ち着きました。ただつくっている時はスコープと予算、どちらが優先かについてかなりモメていました。実際のところ、最優先と2番目はすんなり決まってもそれ以降についてモメることが多い気がします。この場合、「所詮3番目と最後なのでぶっちゃけどちらでもよい」という可能性もあるのでどこまで時間をかけるべきかを見極めるのもちょっとしたポイントになりそうです。ちなみに一番下の「ランニングコスト」はPOがオプションで追加したものの一つしかないので他の要素と比較ができず仕舞いとなりました。ただPOとしては「リリース以降の運用としてこれが重要だというのをアピールしておきたかった」ということだったのでその意味では狙い通りだったそうです。
おわりに
というわけで実例を見つつ「こんな感じだったなぁ」とか「あんなことがあったなぁ」と思い返しつつ、伝えられるものがないかと流してみました。これらの中で何かひとつでもあなたのヒントになれば幸いです。
みんなが集まりよく話し合い合意してつくられ、変化する状況に合わせ適宜更新されたインセプションデッキはプロダクトやチームの良い指針となり、時に迷走から救ってくれるとても有用なものとなりますのでオススメです。
ここまでお付き合いありがとうございました。それではよいインセプションデッキライフを!